ジェイムズ・ベニング2023
ジェイムズ・ベニング2023

TRAILER

INTRODUCTION

ジェイムズ・ベニングは、1942年にアメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーで生まれ、70年代の初頭から今にいたるまで、50年以上にわたって精力的に活動を続ける実験映画作家だ。そのスタイルは、自身で16ミリカメラと録音機材をかついで現地まで赴き、そのあと編集も一人で手掛けるほぼ個人制作である。2009年以降は、デジタルカメラで撮るようになるが、ベニングは、一貫して自ら撮影する「風景」にこだわり続けた映画作家と言うことができる。

映画作家としてのキャリアもユニークで、野球の特待生としてウィスコンシン大学で数学の学位を得るが大学院を中退。コロラドで移民の子供たちに読み書きを教えるなどの活動をしつつ8ミリカメラで映画を制作しはじめ、再度1972年にウィスコンシン大学大学院に入学し33歳で映画の修士を取得している。

ベニングは、ホリス・フランプトン、マイケル・スノウらと交わる中で、自らも『11×14』などの「構造映画」的な作品を制作する。同時期に撮られた『One Way Boogie Woogie』も、『11×14』と同じく、出身地のミルウォーキー周辺の町や郊外の風景を撮影したものだが、『11×14』では異なっていた各ショットの持続時間が、すべて1分ずつの60ショットからなる60分の尺で、数学の学位を持つベニングらしく、極めて数学的な構造を持つ映画となっている。また、2000年前後に撮られた「カリフォルニア・トリロジー」も、それぞれ2分30秒の35個のショットから構成されている。

一方、ベニングは、80年代にニューヨークに拠点を移してから、それまでの身近な中西部の私小説的風景から離れ、過去の犯罪事件など、アメリカ社会の暗部をテーマにした『ランドスケープ・スーサイド』や『Used Innocence』を、そして、80年代末にカリフォルニア芸術大学で教職を得て、ロサンゼルスに移住してから、ユタ州の歴史をテーマにした『Deseret』や、自らが暮らすカリフォルニア州の自然、歴史、産業を検証した「カリフォルニア・トリロジー」を制作するなど、その興味は、国や地域やコミュニティなどの大文字の歴史や精神的風土に広がっていく。

そして、2000 年代に入ると、『13 Lakes』、『Ten Skies』など、風景と音だけから、その背後にある歴史や、時間の経過、つまり観る者に「物語性」をも感じさせることのできる作品をコンスタントに発表し、2007年には『RR』と『キャスティング・ア・グランス』という二本の傑作を、ほぼ同時期に撮り上げることになる。

その後、カメラをデジタルに持ち替えてからも精力的に映画を撮り続け、連続爆弾テロ犯のテッド・カジンスキー(ユナボマー)の小屋を再現し、四季を捉えた4つのショットだけで構成された『Stemple Pass』では、不在のユナボマーが確かに感じられ、最新作の『アレンズワース』では、カリフォルニア州初のアフリカ系アメリカ人によって統治された自治体アレンズワースの荒廃後の現在の風景を、12ヶ月にわたって5分ずつ捉えただけの映画なのだが、観る者は、かつてそこに暮らした人々の存在の痕跡のようなものを感じることができる。それは、「構造映画」の範疇を確実に超えるもので、実験映画研究の第一人者スコット・マクドナルドの言葉を借りれば、「ベニングはインディペンデント映画とハリウッド映画の橋渡しをするような映画作家」だということになるだろう。見事にフレーミングされたその風景は、映画ファンが興奮する極めて「映画的な」風景でもあるのだ。

James Benning photo: Sharon Lockhart

FILMS

11×14
11×14

1977年|80分|16ミリ〈デジタル・レストア版〉

ベニング初の長編映画である『11×14』(印画紙の寸法)は、その前に撮られた短編映画『8 1/2×11』(タイプ用紙の寸法)の発展形で、生まれ育ったミルウォーキーやシカゴの町やその郊外、高架鉄道や高速道路といった、主にフィックスで撮られた66の風景(ショット間には黒味が挟まれる)からなる「構造映画」。カラの風景ではなく、人々が、それも同じ人物が何度か別の場面で登場することで、そこにある種の物語を読み取ることもできるかもしれない。ガソリンスタンドやビルボードのショットが多いのは、現代美術家エド・ルシェへの目配せか。二度流れる曲は、ボブ・ディランの「ブラック・ダイアモンド湾」。

ランドスケープ・スーサイド
Landscape Suicide

1986年|95分|16ミリ

ベニングが描いた“風景の犯罪”。二つのセンセーショナルな犯罪が描かれる。カリフォルニアで15歳の少女がクラスメートを刺殺した事件。もう一つは有名なウィスコンシン州で起きた農夫エド・ゲインが3年間で15人を殺害した連続殺人事件(トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』やアルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』のモデルとなった)。『8 1/2×11』(1974)、『11×14』(1977)、『One Way Boogie Woogie』(1977)などで追求した映画の物語性と、風景を通してドキュメンタリー的に目撃される“アメリカの夢”の暗部が結びつく。

セントラル・ヴァレー カリフォルニア・トリロジー
El Valley Centro - California Trilogy Part1

1999年|90分|16ミリ

カリフォルニアの内陸部の大半を占めるグレート・セントラル・ヴァレー。全長700キロ、幅100キロに及び、アメリカ全土の1/4に食料を供給している。その広大な土地を所有するのは石油会社や農業関連の大企業だ。ベニングはその風景を16ミリフィルムの1リール分(2分半)をフィックスの1ショットで撮影し、35ショットで構成したポートレートとした。そこに写される殺風景な荒地は、全て企業の所有物であることが最後に明かされ、注意深く見れば労働者の多くは移民であることが分かる。風景の中に込められた政治性が重要な要素となっているベニングの代表作の一本。

ロス カリフォルニア・トリロジー
Los - California Trilogy Part2

2000年|90分|16ミリ

ベニングが『セントラル・ヴァレー』の完成間近になって、姉妹編として構想をはじめた作品。『セントラル・ヴァレー』の都市バージョンとしてロサンゼルスを描いている。セントラル・ヴァレーが水源となってロサンゼルスに水が流れていくことから、全体でこの地域の水利の状況を描く構造にもなっている。『セントラル・ヴァレー』のラストショットのホイーラー・リッジのショットは、この『ロス』のファーストショットのマルホランドの排水溝へと繋がっている。

ソゴビ カリフォルニア・トリロジー
Sogobi - California Trilogy Part3

2002年|90分|16ミリ

『セントラル・ヴァレー』『ロス』と、〈郊外〉から〈都市〉のポートレートを作り終えたベニングは、カリフォルニア全体を見渡すためその〈自然〉を捉えた本作を作り、同じ2分半×35ショットの構造を持つ『ソゴビ』を完成させ、この3本で「カリフォルニア・トリロジー」という3部作とした。カリフォルニアの自然を見つめ、そこに耳を傾けた本作のタイトル『ソゴビ』は、ネイティブ・アメリカン、ショショーニ族の言語で“大地”を意味する。最初のショットは『ロス』のラストショットと繋がっており、最後のショットは『セントラル・ヴァレー』の最初のショットと繋がり、3部作全体で相互のショットが関連するパズルのような構造をなしている。

キャスティング・ア・グランス
casting a glance

2007年|80分|16ミリ〈デジタル版〉

現代美術家のロバート・スミッソンが、1970年にユタ州のソルトレイクに作ったランドアート作品「スパイラル・ジェティ」を、ベニングが2005年から2年の間に16回この地を訪れて撮影した映画。この作品は、その後、湖の水位の変化により、水没したり現れたり、またその色も変化したが、ベニングは、35年間にその作品の辿った軌跡を16回の撮影でシミュレートした。ベニングには珍しく、ロングだけでなくクロース・ショットもある。また、後の『Measuring Change』では、デジタルで撮り直してもいる。カーラジオらしきものから流れる曲は、スミッソンが亡くなった73年に録音されたエミルー・ハリスとグラム・パーソンズによる「ラヴ・ハーツ」。

RR
RR

2007年|110分|16ミリ

『RR』(Rail Roadの頭文字を並べたもの)とは、『キャスティング・ア・グランス』の撮影の行き帰りなど、ベニングが20州近くを旅して216本の列車を撮影し、その中から43本のショットを並べた作品だ。一つのショットの長さは、列車がフレームの片方から、もう片方まで走り抜けるまでとし、中には数両で終わるものもあれば、11分にも及ぶものもある。アメリカの開拓の歴史は、鉄道敷設の歴史でもあるが、今では列車が運ぶのは人ではなく物である。ここでも撮影された列車の大半は貨物列車だ。映画の後半、カリフォルニア州ネルソンの稲作地で流れる曲は、ウディ・ガスリーの「我が祖国(This Land Is Your Land)」。

アレンズワース
Allensworth

2022年|65分|DCP

ベニングの最新作。アレンズワースとは、1908年に作られた、カリフォルニア州初のアフリカ系アメリカ人によって統治された自治体だったが、第一次大戦後、多くの住民が離れ荒廃した。現在では、当時の歴史的建造物の復元・修復が行われているが、ベニングは一年にわたって毎月一棟、無人の建物に5分ずつカメラを向ける。唯一の例外は、ある女生徒が、公民権運動家だったエリザベス・エックフォードのワンピースのレプリカを身につけ、ルシール・クリフトンの詩を朗読するシーンだ。その演出によって、小さなコミュニティの物語が黒人の歴史全体と交差する。ニーナ・シモンとレッドベリーの歌が、吹きっさらしの土地に、幻のようにこだましている。

11×14

SCHEDULE

DATE 14:45 16:50 19:00
10.7(土) アレンズワース RR 11×14
10.8(日) RR キャスティング・ア・グランス ランドスケープ・スーサイド
10.9(月) セントラル・ヴァレー ロス ソゴビ
10.10(火) 11×14 ランドスケープ・スーサイド RR
10.11(水) ランドスケープ・スーサイド アレンズワース キャスティング・ア・グランス
10.12(木) 11×14 キャスティング・ア・グランス アレンズワース
10.13(金) ソゴビ ロス セントラル・ヴァレー
DATE 14:45 16:50 19:00
10.7(土) アレンズワース RR 11×14
10.8(日) RR キャスティング・
ア・グランス
ランドスケープ・
スーサイド
10.9(月) セントラル・ヴァレー ロス ソゴビ
10.10(火) 11×14 ランドスケープ・
スーサイド
RR
10.11(水) ランドスケープ・
スーサイド
アレンズワース キャスティング・
ア・グランス
10.12(木) 11×14 キャスティング・
ア・グランス
アレンズワース
10.13(金) ソゴビ ロス セントラル・ヴァレー
Allensworth